義元ゆういちの別名義作品②「PIGEON WORKS アナログ探偵事件録」(2012年)

義元ゆういちの実質的デビュー作

義元ゆういち氏の先行作品を取り上げる第二弾としまして、2012年のマガジンプラス7月号に掲載された65ページの読み切り「PIGEON WORKS アナログ探偵事件録」を紹介します。名義は好本雄一ですが、義元ゆういち氏の事実上のデビュー作と捉えてよいでしょう。

本作は新人読み切りバトルであるグランドチャンレジチャンピオンカーニバル(略称GCCC)の一環として掲載され、読者のアンケートハガキによる人気投票が行われました。この人気投票によってトップとなった作家は新作を掲載できる権利を獲得するという、読者を巻き込んだデビューへのコンペティションと言えます。キャッチコピーにもある通り、「未来の連載作家を選ぶのは、あなたです!」というわけで、作家のデビュー自体を読者が後押しできるような仕組みになっています。このような企画は非常に興味深いですね。

人気投票の結果を直接確認したわけではないのですが、翌年の月刊少年マガジンに読み切りが掲載された際のキャッチコピーに「新人コンペナンバー1作家」として紹介されています*1。よって、読み切りバトルはめでたく義元氏の勝利となったのでしょう。

PIGEON WORKS

青春ミステリー

ここまでくれば自明かもしれませんが、デビュー作である本作も「青春ミステリー」です。しかも、連載作『夢喰い探偵』や読み切り『探偵作家』と同様、並木街道高校を舞台としています。登場人物の設定や造形は『探偵作家』とほぼ同じであり、男子高校生の藤原新(ふじわらあらた)が探偵役を務め、ヒロインに生徒会長の静和はこ(しずわはこ)を配置しています。『探偵作家』の主人公には覆面作家という設定がありましたが、本作ではまだその設定はありません。その代わり、図書室の一角を占領して探偵業務を行っています。タイトルにある「PIGEON WORKS(ピジョンワークス)」とはなんぞや状態でしたが、藤原の通信手段が伝書バトであることに由来します。なぜ伝書バトなのかと言えば、彼は電子機器が大嫌いのアナログ人間なのだそうです。このあたりは、『探偵作家』の主人公が小説を万年筆で執筆することにこだわっていたことに通じますね。まず間違いなく、作者の趣味でしょう。

事件と推理

学園を巻き込む騒動は、ひとりの男子生徒が屋上から転落したことに始まります。事件現場には私物のカメラが落ちていたため、彼は女子生徒を盗撮していたストーカーだったのではないかという噂が蔓延し始めます。生徒会長の静和は噂の真偽を確かめるべく、藤原に協力を求める、というのがあらすじになります。

藤原は男子生徒が話題のストーカーではないことを容易く証明します。その上で、ストーカーではないのなら、彼は一体何を撮影していたのか、を考えなければなりません。この問題を解決することによって、彼が屋上にいた理由に加え、さらには真のストーカー犯が誰なのかまでを一息に手繰り寄せることになります。

まっとうなミステリらしく、証拠の開示が丁寧であった点は感心します。男子生徒が屋上で撮影した3枚の写真という明快なヒントが用意されており、ここに隠された謎を明らかにすることで真相にたどり着けるという一点突破型の謎解きでした。これは同時にストーリーが一本調子になってしまっている原因でもあり、全体的にひねりが足りないという不満はありました。その代わり、解決編での真相解明はなかなかドラマチックに描かれています。校内に広がる噂の真相を明らかにすべく学生の面前に立った演壇上の静和会長と、その舞台袖における藤原の推理が同時並行で描かれ、そのコンビネーションが犯人に対する決定打を可能にしています。単に同時に描かれるというだけではなく、その状況そのものが最後の手がかりになるという妙手に、ドラマとしても犯人を追い詰めるトリックとしてもなるほどなと感心しました。

 巻末のQ&A

掲載誌の巻末に義元ゆういち氏へのQ&Aコーナーがあるのですが、そこでの受け答えを見て、この人は本物かもしれないと思ってしまいました。それは漫画家としてというよりも、むしろミステリの書き手として信頼できる作家さんだな、という感じに近いのです。こんなことを思ったひとつの理由は、新人賞に応募した氏の作品が「実験的な快作」と評されていることです。ミステリ読者にとって「実験的」というのは蠱惑的な響きのある単語です。ミステリは読者を驚かせることも目的のひとつですが、その驚きを生むためにあえてミステリのルールを破壊するような「実験的」な試みが作品自体に仕掛けられることもしばしばです。そのような驚きをミステリ読者はつねに渇望しています。もちろん当該作品を読んだわけではないので、どのように「実験的」なのかはわかりませんが、義元氏のその姿勢には一目置くものがあるようです。単に漫画家としてだけではなく、ミステリ作家に求められるような資質も感じ取れます。

さいごに 

義元ゆういち氏が連載開始前に発表した『PIGEON WORKS』と『探偵作家』を読めば、氏の創作のベースそのものが「青春ミステリー」にあることがわかります。しかも、正当な本格ミステリです。また、これらの先行作品の時点で作風は完成しており、連載作『夢喰い探偵』は完全にこの流れの上にあります。氏の作風でなにより良いのはコミカルな描写で、個性豊かな登場人物たちのさりげないセリフやリアクションがかわいらしい。特に、事件の中にミステリのお約束を見つけて勝手に盛り上がる登場人物たちのなんともおかしなこと。ギャグセンスが「青春ミステリー」をいい塩梅に引き立てている、といった感じです。これは優劣の問題ではなく、単に好みの問題かもしれまんね。

いつの日かこれらの読み切りが「義元ゆういち幻の初期短編」とか呼ばれるようになる日が来るのでしょうか。いえいえ、是非とも単行本に収録していただいて、もう一度読者の手に届くことを期待しましょう。まっとうなミステリに飢えている読者は数知れないのです。

*1:『探偵作家 俺/マリア』月刊少年マガジン(2013年9月号)

『夢喰い探偵』第7話「時効」

並木本町駅前の廃屋で白骨遺体が発見される。身元は2年前から行方不明になっている当時中学生の女子生徒であり、状況的に何者かによって撲殺された可能性が高い。国谷の友人であり、被害者の同級生であった生徒会員が容疑者のひとりとして浮かび上がる。さらに、遺体の傍には謎のメッセージが残されていた。

 

シリーズで初めて死人が出た事件

これまでの事件はすべて学園の内外で起こる「日常の謎」であり、どんなに悪質でもせいぜい軽犯罪止まりでした。要は、さすがに死人がでるような重大事件ではなかったのです。しかし、今回の第7話ではついに死人が出てしまいます。普通のミステリー漫画を読んでいるときであれば、これから捜査が始まって事件を推理するぞ、と意気込むのですが、『夢喰い探偵』においては作中で死人が出てしまったこと自体にショックを受けてしまいました。ページをめくる勇気を奮い起こすことにも一苦労でしたね。とはいえ、物語の間口が広いことも同時に示したわけですので、ミステリー漫画としては通常の進行だと思います。

再登場する登場人物たち

物語冒頭、アイリと国谷は生徒会室で遺体発見のニュースをチェックしています。生徒会員である国谷がいるのは当然ですが、アイリまで同席しているのはなぜでしょうか。仲がいいですね、ということにしておきましょう。そしてもちろん、生徒会室ですので、以前の「ポスター増殖事件」(第4話)で登場したメンバーが数名再登場を果たしております。もちろん、読者(私ですが)の人気をアイリと二分している生徒会長もいますが、アイリと国谷の夫婦漫才を引き立てるためだけの役どころとなっています。彼らと同様に再登場を果たした一人ではありますが、名前付きで紹介されたのは森林りえか(もりばやしりえか)ただ一人、今回の事件の容疑者なのです。そしてアイリと国谷は彼女からの依頼によって事件を捜査することになりました。彼女たちはたかだか素人探偵ではありますが、すでに警察とのコネはちゃっかり作ってあり(第3話)、新米刑事の餅谷万智(もちやまち)巡査部長が再登場します。

ダイイングメッセージと半密室

遺体は失踪当時中学生だった源未来(みなもとみらい)という女子生徒だったのですが、彼女とストリートダンスのチームを構成していた同級生たちが動機の存在を理由に容疑者扱いされることになります。遺体の発見現場は彼女たちがかつてダンスの練習をしていた並木本町駅*1の広場からほど近い廃屋でした。殺害現場のドアには内側から鍵がかけられていましたが、完全な密室ではありません。窓の鍵が開いており、犯人はこの窓から脱出したと考えられます。むしろ事件を不可解なものにしているのは、被害者が書いた血文字のメッセージです。ひらがな3文字で書かれたそれはダイイングメッセージのはずですが、「意味深なだけで意味不明」なものでした。

刑事事件を描く難しさ

今回の眼目はダイイングメッセージの解読にあるため、実物の血文字を見て確認する必要がありました。アイリは知己の刑事である餅谷刑事を呼び出し、あれこれ情報提供を依頼することになりますが、常識的に考えて現役刑事がこれに応えるということはないでしょう。ところが作中では「お約束」(漫画のお約束的展開といった意味)であると言って、血文字の写真を見せてしまったり、さらにはアイリと国谷を遺体発見現場へ連れていっています*2。いくら現場が初めから廃屋で、しかも捜査員が撤収した後だとは言え、さすがにそれはまずいんじゃないですか刑事さん、と言いたくなります。餅谷刑事には彼女たちの言うことを聞く義理だって何もないわけですから。ただの高校生が事件捜査に協力するには、物語上の必然性がどうしても必要になりますが、ここではそれが一切説明されていません。このあたりが、素人探偵を主人公にして刑事事件を描く難しいところですね。

解決編:半密室の論理に拍手

今回の事件も非常に難しい印象を持ちました。なにしろ、推理のためのヒントが十分ではないと感じたからです。この疑問点は解決編を読んでも解消しませんでした。アンフェアというわけではありませんが、詰めが甘いといった感じです(末尾に列挙しておきます)。

推理自体はよくできていると思います。特に、現場が不完全な密室状態だったという事実からひとつの仮説を排除するロジックはなかなか読みごたえがありよかったです。これによって新たな解釈が浮かび上がり、さらにダイイングメッセージの意味が明らかになるという一連の流れは極めてスムーズです。推理というより、推理の見せ方が巧みなのでしょう。義元氏のミステリーのいいところはどうやらこの辺にあるようで、読んでいてわからなくなることがないのです。これを一話完結の短編ではなく長編でやったらどうなるかという点は非常に気になりますね。

さて、結局、警察が捜査中の事件を一般人の高校生が解決してしまいました。事件解決後の餅谷刑事や警察の対応までは描かれておりませんので、この一件が探偵アイリの立場をどのように変えていくのか、まだよくわかりません。警察関係者とのコネが広がったり、別の形で刑事事件に関与するというような展開になる可能性もあるでしょう。様々な意味で、この一件の影響力は計り知れません。

ところで、解決編開始前に挿入される決め台詞「なろうか 名探偵に!」を凛々しい表情で言うアイリさんがいつも以上にかっこよくて痺れました。表情はもしかすると事件の性質を表しているかもしれませんね。前回(第6話)の事件はかなり悪質な犯人でしたが、そのときもけっこう厳しい表情をしていました。逆に前々回(第5話)は犯人の意図が善良なものであり、行為自体も悪戯レベルなので、決め台詞の表情はかわいくする、とか。 

「3話周期で面白いエピソードがやってくる」の法則

述べた通り、今回の第7話には難点が多く、力不足を感じました。前回の第6話が傑作だっただけに期待しすぎてしまったのかもしれません。ここで気付いたのですが、3話ごとに秀逸なエピソードがやってくるという法則があるような気がします。3の倍数にあたるエピソードは単行本の巻末に相当するので、必然的に力が入るのでしょう。面白いと言いますか、出来がいいと言いますか、とにかく力作であることが多いような気がします。まだ2巻が発売されてもいない状況でこんなことを言うのは無理がありますが、これまで雑誌で毎号追ってきた身として(もう一年経ったわけですね)、なんとなくそんな雰囲気を感じ取っている、というコメントだけ残しておくことにしましょう。 

疑問点

残念ながら今回のエピソードには納得できない点が目立ちました。特に、床に書かれた血文字が本当に被害者のものなのかを保証するものがないため、ここで思考がストップしてしまいました。ミステリーならいちゃもんがつくのは宿命ですが、その中でもこれは致命的かもしれないというものを以下で列挙しておきます。ただし、ネタバレになりますので、フォントカラーを白にして隠しておきますね。

  1. テーブルから落ちて頭を強打したことが死因なら、その場所に血痕が残らないのか?これによって警察は初めから事故と断定できたのではないか?また、血文字以外に血痕が残っている様子が描かれていない点が気になる。
  2. 同じく、テーブルから落ちたのであれば、その近くで遺体が発見されてもよいのではないか?また、その場合、遺体の姿勢(テープで縁取りされたような姿勢)はあのようになるのか?もっと関節が曲がったようなものになるのではないか。
  3. ダイイングメッセージの解読のヒントになったのは指の位置だが、2年間の白骨化の過程で位置がずれたという可能性はないのか?

*1:この”並木本町駅”が彼らの学校の最寄り駅(並木駅)からどの程度の距離にあるのか、作中では述べられていません。

*2:さらに言えば、事件現場を目にしたふたりのリアクションが低いのでは?国谷はもっとびびっていていいし、ミステリー狂のアイリは逆にはしゃいでしまってもおかしくない。不謹慎極まりないですけど。

義元ゆういちの別名義作品①「探偵作家 俺/マリア」(2013年)

 義元ゆういちの別名義作品

ミステリ漫画『夢喰い探偵』の著者である義元ゆういち氏は、2013年に好本雄一という別名義で62ページの読み切りを月刊少年マガジンに掲載しています*1。タイトルは「探偵作家 俺/マリア ―書き上げるまでが事件です」といい、探偵役に高校生作家、助手役に生徒会長を配置する「青春ミステリー」でした。惹句は「青春×ロジカル・ミステリ」となっており、ここでもやはりきちんとした推理モノを青春と両立させることに注力しています。物語の舞台が『夢喰い探偵』と酷似しており、この時点で連載の構想があったのかもしれません。本作は今のところ単行本化されていません。そのため、今回はちょっと詳しくおさらいしてみようと思います。

物語と登場人物

主人公であり、本作で探偵役を務めるのは藤原新(ふじわらあらた)という男子高校生なのですが、正体を偽ってミステリ小説を発表する売れっ子作家という設定です。彼が作品を執筆する書斎が学校の時計塔にあり、その場所を提供しているのが静和はこ(しずわはこ)という生徒会長の女子生徒です。静和は藤原に時計塔を提供する代わりに、学園内のトラブルを藤原に解決してもらっているという交換条件の上に成り立つコンビです。とはいえ、完全に対等な関係というわけでもなさそうで、探偵は時計塔を使わせてもらっている負い目がありますから、会長が持ち込む依頼を断るわけにはいきません。そのため、しぶしぶ事件の捜査を開始するといった体で、会長に引っ張られながら事件現場へ足を運ぶことになりました。*2

事件

藤原が直面する事件は「バラバラ殺人」!なのですが、実際のところは器物損壊です。この高校の美術部には「三聖」と呼ばれる優秀な生徒が3名おり、彼らの新作は美術展での高い評価が期待されていました。ところが、美術室に保管していた彼らの作品が台ごと倒されて、バラバラに破壊されてしまいます。人が殺されたなどという物騒な事件ではないのですが、「芸術家にとって作品は命も同じ」であるため、この事件は殺人的であるというわけです。バラバラ殺人とはこういう意味だったわけです。

さて、事件の第一発見者の主張に基づけば美術室は”ほぼ密室”の状態であり、人の出入りは不可能でした。事件現場は完全な密室ではなく、天井付近にある小窓が開いていたことに加え、密室の内側に猫の毛が落ちていたことから、校内で話題になっている迷惑ノラ猫の仕業であろうと考えられました。ノラ猫を捕縛しようと息巻く美術部員をよそに、藤原はある理由から猫には犯行が不可能であると推理し、真相の解明を目指して捜査を始めることになったのです。

例の優秀な美術部員たち3名それぞれに事情を聞いて回ったところ、どうやら全員に動機がある一方で、これまた全員にアリバイがありました。ここにきて、密室とアリバイという二重の壁が立ちはだかります。探偵は容疑者3名(+ノラ猫1匹)の中から真犯人を指摘し、密室とアリバイトリックを突破する必要がありました。

探偵の推理を振り返って

密室を構成するトリックが何らかの物理トリックであると察することはできますが、具体的な方法はなかなか指摘できないでしょう。というのは、その仕掛け部分に関する作中での言及が少なく、読者が推理するには情報が足りないように思われるからです。さらに言うと、このトリック、実行自体に問題はないのですが、トリックに使ったものが証拠としていろいろと現場に残ってしまいます。そのひとつについて、犯人はそれをごまかすための準備をしているのですが、それ以外の証拠についてはどうしたのでしょう?藤原もこの点を説明していないので、トリックとしての実現可能性については少し疑問が残ります。とはいえ、物理トリックは絵として映えるので漫画向きですよね。

むしろ読んでいて困ったぞと思ったのは、推理のプロセスがわかりにくい点でした。読者にはきちんと証拠は提示されており、結論も明確です。しかし、その中間である、証拠から結論までのプロセスが不明瞭だと感じました。もう少し具体的に言うと、読者に提示された証拠や解決へのヒントが、解決編における探偵の推理とどのように対応しているのか必ずしも明確ではないのです。そのため、どうして藤原はそのように推理したのかという部分が伝わりにくくなっています。このあたりは、読み切りというページ数の制約上、作者が解決編でやろうと思っていたことをいくつか削ってしまったために生じたものかもしれません。前半の情報密度の高さと、後半の解決編の単純さに落差があるのはそのせいでしょうか。

このようにいくつか煮え切らない部分はありましたが、総じて楽しめました。物理トリックによる密室事件は『夢喰い探偵』でも1件描かれていますが、謎解きの密度としてはこちらの方が一枚上手だと感じます。

念のために付け加えておくと、最終的に明かされた犯行の動機はきわめてまっとうなものでした。しかも青春の一ページらしく感動系で攻めてくるあたり、常に青春モノを志向する義元氏の本領が発揮されています。なお、作中で藤原が捜査の結果を振り返って「動機が揃い過ぎている」とか、それを創作としてとらえると「冴えたシナリオじゃない」などと評していることから、作者は動機の意外性にもこだわりがあるように感じられます。だからこそ感動的ラストにもつなげやすくなるのでしょう。

『夢喰い探偵』との関連

ところで、主人公である藤原新は白雪マリア(しらゆきまりあ)という筆名で小説を発表しています。タイトル「探偵作家 俺/マリア」のマリアとは、彼の筆名を意味しています。さらに、何を隠そう、彼の小説シリーズ名が『宇都宮アイリ』なのです。それってなんだっけ?とか聞かないでください。宇都宮アイリは(一部のミステリファンの間で)絶賛を誇ったミステリ漫画『夢喰い探偵』のヒロインです。本の表紙にも宇都宮アイリらしき人物が描写されており、この時点ですでに探偵アイリ像は存在したようです。藤原たちが通う高校が並木街道高校であることなど、『夢喰い探偵』との連続性は否定しようがありません。もしかすると、『夢喰い探偵』は本作「探偵作家」の作中作とか、同じ高校に在籍した先輩後輩の関係などといったオマケ設定が重層的に組み合わさっているのかもしれません。このあたりに、作品世界に対する義元氏の愛が感じられるではありませんか。

そして、本作と『夢喰い探偵』の作風も非常に似通っています。そもそも青春ミステリという同じジャンルですし、ストーリーテリングのノリも同じです。違うところと言えば、探偵と助手の事件に対するスタンスの差で、読み切りでは助手の方が積極的で探偵側は冷めているという、アイリと国谷のコンビの真逆になっています。とは言いつつ、積極的な女子が物語を引っ張るという意味では両者は共通していますね。

義元ゆういちの作品リスト

義元ゆういち(あるいは好本雄一)の発表作品は以下の3本だと思われます。

  • PIGEON WORKS アナログ探偵事件録(2012, 好本雄一)
  • 探偵作家 俺/マリア(2013, 好本雄一)
  • 夢喰い探偵(2015-2016, 義元ゆういち)

これら以外の名義で作品を発表していた場合にはさすがに追い切れませんので、ひとまず上記の3本とします。本ブログでは、上記3作品について、すでにレビュー済みです(2018/09/02)。

*1:月刊少年マガジン2013年9月号

*2:「助手(生徒会長)が事件を持ってくる」のであれば、「探偵(高校生作家)が事件に出会う必然性」を説明する必要がないのでなかなか便利な設定だと思ったのですが、『夢喰い探偵』には引き継がれなかったようですね。