3月23日は世界気象デー

世界気象デー2017

空にぽっかり浮かんでいるわた雲を見れば歓喜し、滑らかに漂うすじ雲を見れば恍惚とします。それらに積雲、巻雲という名前をつけてくれたのは世界気象機関(WMO)でした。そのWMOが記念日を定めているとあれば、私たちは無視するわけにはいきません。雲が大好きなみなさま方ならもしかすると知っている「世界気象デー」(毎年3月23日)のことです。

とはいえ、乱立する世界なんとかデーのご多分に漏れず、世界気象デーのありがたみもちょっと頼りないところがあります。しかし、2017年今年のテーマはズバリ「雲を理解する*1」。なんと、雲の分類が30年ぶりに改訂されるというのです。雲好きは見過ごせないビッグイベントになることでしょう。

雲の分類改訂に注目

この度の改訂における最大の注目ポイントは「Asperitas」という新しい雲の種類が追加されることです。「Asperitas」とはラテン語で「粗い」を意味しています。「波状雲」という似た雲がありますが、さらに暗く複雑な形をしており不気味さではピカイチですね。

なんとこの雲、近年発見された新種です。しかも、最初の報告は気象学者ではなく一般市民が職場で撮影した写真だったというから驚き。それが2006年のことで、そこからたった10年程度で公式に認定されるとはちょっとしたシンデレラストーリーのようにも聞こえます。この決定に大きく寄与しているのは「雲を愛でる会」の設立者であるプレイター=ピニー氏であり、この雲を新種として認定するよう積極的に働きかけていました*2

他にも改訂される部分は多くあり、アーチ雲の一種である「Volutus」が追加されるだけでなく、「ケルビン-ヘルムホルツ波雲」や「落下すじの雲」に正式なラテン語名が与えられることなど、盛りだくさん。これまで出版された雲の本がちょっぴり古くなってしまうことになりますね。これをきっかけに本の出版が盛んになって、巷で雲ブームなんて起きないでしょうか。

ついでにご紹介しておきますが、先に述べたプレイター=ピニー氏が世界気象デーのイベントでゲストトークを行います。世界時3月23日13時30分(日本時間22時30分)からFacebookやWMOサイトで視聴可能です。今回追加された新種「Asperitas」の採用までのあれやらこれやらについては詳しく聞けるだろうと思います。

オンライン万歳

雲の新しい分類というだけではなく、今回の改訂の何がありがたいかというと、改訂版が「オンラインで公開」されることにあるでしょう。つまり、紙媒体ではなく、電子媒体ということです。今時あたりまえすぎる話ではりますが、以前のバージョンが公開されたのはインターネット時代以前であり、現在出回っているのはそのスキャン画像です。画像は粗いし、検索しづらいということで、これらが完全電子化されたら快適な雲ライフを堪能できることは間違いありません。しかも、掲載される画像は世界中で撮影されたものからの選りすぐりであるため、鮮明美麗かつ雲の特徴を的確に捉えたすばらしいものとなるでしょう。公開されているいくつかの写真*3を見ただけで期待感が高まります。

リンク

改訂版の公開前なので情報は散乱しています。分類の改訂に関しては、基本的にWMOの公式サイトと、私設サイトではありますが世界的に信頼の厚い「雲を愛でる会」を情報源としています。

WMO International Cloud Atlas

こちらが改訂版でございます。予想以上に豊富なコンテンツでちょっと冷静でなんていられません。単なるデータベースとしてだけでなく、楽しく雲について学べるようになっています。これは使ったもん勝ちでしょう。

www.wmocloudatlas.org

クラウドスポッター入門

クラウドスポッターができるまで

f:id:monokuroobake:20161207222928j:plain星空を眺めるのが好きで、一等星などの主要な星や、それらが属する季節の星座はあらかた網羅しています。星の季節変化や惑星の運行に慣れてくると、今日これくらいの時間帯の夜空はこんな感じだな、と頭の中に天球を再現することができたりします。これはとても楽しい。

ところが、実際の星空観望においては雲が多分に悪さをします。雨は降っていないけど空一面を雲が覆っている。晴れていると思ったが見ようとしていた方角の空に雲が群れを成している。夜空を楽しもうとしたとき、雲は大敵なのです。

恨めしい雲の存在を意識しはじめると、ぽっかり浮かんでいる昼間の雲ひとつが妙に気になるようになりました。初めの関心は、今夜の天気をあの雲で予測できないか、ということでした。あのような形の雲ができるのはどのような気象条件だからなのか。あの雲はどこから来てどこへ行くのか。あの雲はどうしてあんなにかわいいのか。

雲のことばかり考えて生活していた日々が続き、ふと気づくと、雲がかわいくてかわいくてたまらなくなっていました。雲のかわいさとはなにか。雲は多彩です。ぽっかり、ふわふわ、まるまる、どんより、のっぺり、色々な顔を見せてくれます。そしてなにより、時間がたてばすぐに姿を変える、この刹那的存在のはかなさ。そういえば幼いころは、窓辺に寝転がって空を横切るわた雲をずっと眺めていたりしたものでした。意味があるのかないのかなんて考えない、そんな時間を久しく過ごしていないな、と。

新米クラウドスポッターの目標

以上のような経緯でクラウドスポッター入門を果たしたものの、まだまだ知識や経験が足りません。どんな雲であっても基本的な10種類のいずれかに分類されると言いますが、いま目にしているあの雲がそのうちのどれに属するのか、その場で判断がつきません。面白い雲を見つけても、それがどういう雲で、なぜそのような形をしているのか説明できないままではクラウドスポッターとは呼べないし、雲の面白さを十分に堪能することもできないでしょう。

そこで本ブログの方針として、雲の写真コレクションを作成するという目標を立てます。雲を見つけて撮影し、それを分類する。当面の目標は基本10種類の制覇です。つまり10枚の写真を撮ればよいのですからなんだか難易度が低そうにも感じますが、相手は俊敏でワイルドですから、相当な苦戦を強いられることでしょう。それに対してこちらの武器はコンパクトデジカメ一台(格安)ですので、ブログ投稿を前提とした写真撮影にはそれなりのハードルが伴います。気長に挑戦することをここに宣言いたします。

雲好きのバイブル

雲や気象に関する本は思いのほか豊富です。入門したての新米がこのように紹介するのはおこがましいのですが、これこそ雲好きにとってのバイブルに違いないと思われる一冊『「雲」の楽しみ方』をご紹介します。 

「雲」の楽しみ方

「雲」の楽しみ方

 

雲好きが高じてウェブ上にコミュニティを立ち上げてしまった著者が雲への偏愛を垂れ流し続けた結果生まれたこの一冊はまさしく雲好きのための本。雲にはどのような種類があるのか、どのように分類されるのか、なぜそのような雲が生じるのか、素人にもわかりやすく、そして愛をこめて説明しています。本のジャンルとしてはサイエンス・ノンフィクション(科学読み物)ですが、多分に主観が入り混じった「雲ラブ」目線なので、学術的な解説に重点があるわけではありません(念のために注意しておくと、著者はただの雲好き男であり、決して気象学者や天気予報士などではありません)。著者自身を含む数々の実体験や、文学作品から雲の描写を引用するなど、多様な観点から雲の魅力についてとことん語りつくしています。ああ、ここにも物好きな人がいたか、というのが素直な感想です。

このブログでは雲好きの人をクラウドスポッターと呼びならしますが、これは本書の原題「Cloudspotter's guide」から来ています。雲を愛し、ただ眺めるだけでなく積極的に雲を探そうとする人たちだからこそクラウドスポッターと呼ばれるのです。この本を片手にクラウドスポッター街道を突き進んでいきましょう。

ところで、本書は単行本なので値段がちょっとお高めなのが痛いところでしたが、来月(2017年1月)に河出書房から文庫版が発売されます。現状hontoでは書誌情報を参照できますが、河出書房やAmazonではヒットしません。ご興味のある方は是非。

「雲」の楽しみ方 (河出文庫)/ギャヴィン・プレイター=ピニー/桃井緑美子 河出文庫 - 紙の本:honto本の通販ストア

 

『夢喰い探偵』第3巻(最終巻)

『夢喰い探偵』第3巻

2016年10月17日に『夢喰い探偵』シリーズ最終巻となる第3巻が発売されました。

第3巻は第7話から最終話(第9話)までの3話収録となっており、設定上の謎が手つかずのままではありますが、宇都宮アイリ探偵譚のクライマックスとしてさわやかに締めくくられています。第3巻にはアイリと国谷のちょっと詳しいプロフィールなど、単行本派にうれしいおまけページがついています。

 以下は、第7話から最終話までの過去記事となります。

monokuroobake.hatenablog.com

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シリーズを振り返って

『夢喰い探偵』は残念ながら第3巻をもってシリーズ完結となりました。本作ほど連載を続けてほしいと思った漫画作品は他にありません。書き手の投げたボールが違うことなくストライク、作中のすべての要素がただ一点を目指して集約するようにさえ感じられました。もちろん、この一点にいたのは私だけではないでしょう。

何度も繰り返していますが、本作の魅力はなにより「本格ミステリ」であること。一話完結というページ数の制約のもとで事件を展開しそして畳み込むまでの鮮やかさ。そこに至るまでの推理の過程はロジカルであり、ヒントが漏れなく提示される徹底ぶり。律儀な構成とフェアプレイにミステリ魂がくすぐられました。もちろん、キャラクターの魅力、画風、青春など、本作を構成する要素のどれもが欠くべからざるものでした。ミステリ好きに是非、ミステリ好きでなくても是非、読んでほしい漫画です。

これから本作を手に取る人へ

本作の各エピソードは完全に独立しており、どこから読んでも楽しめます。それまでのキャラクターを知っているからこそ味わえる面白さがあるのはもちろんですが。

さわやか系ミステリを気軽に味わいたいという方は第1巻(第1話~第3話)がおすすめ。第2話と第3話では、地に足の着いたミステリを披露しながらもヒューマンドラマとして味わい深く、青春ミステリの醍醐味がいかんなく発揮されています。

ミステリの出来栄えだけ知りたいという方は第2巻(第4話~第6話)がおすすめ。ヒントが正々堂々提示されたアリバイトリックの第5話は是非解きたい。不可解極まる事件現場が緻密な論理によって解体される第6話はシリーズ中の最高傑作。金田一耕助好きとエラリー・クイーン好きはとりあえず読んでみよう。このあたりのエピソードが好きなら、パズルを組み上げるような快感に浸れる第8話(第3巻)も楽しめるはず。

よく知らない作品を買うのは躊躇う、まずは様子見、というなら、マガジンRの公式ページで第1話(全ページ)が無料公開されています。犯人を追い詰める過程で一ひねり加えてあり、一般的なミステリ漫画のひとつ上を目指そうとしていることがわかります。(第1話→)夢喰い探偵-宇都宮アイリの帰還-|少年マガジンR|講談社コミックプラス

さいごに

『夢喰い探偵』の面白さに気づいたとき、ようやくミステリ漫画でいい作品に出合えたとうれしく思ったものでした。ミステリ漫画をあれこれ読み漁っているわけでもありませんが、「本格ミステリ」にこれほど合致する漫画作品はそう多くはないはずです。それだけにシリーズの終了は大きな喪失ですが、ミステリ漫画のお手本がここにあるという事実は変わりません。

 

『夢喰い探偵』、面白かったです。

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