『夢喰い探偵』第4話「夏への扉」

学内の掲示板のいたるところに薬物乱用防止キャンペーンである姫宮かれんのポスターが貼り出されるという怪事件が発生。案の定、不仲な部活同士の対立を招いてしまい、掲示物を管理している生徒会は宇都宮アイリに「姫宮かれんの増殖」事件*1の解明を依頼する。

今回の舞台は主人公が通う並木街道高校の生徒会です。毎回ユニークなキャラクターが登場するのも本作の魅力のひとつですが、生徒会長である成島芽以子(なるしまめいこ)ほどインパクトのある人物はなかなかいないでしょう。 作中の表現をそのまま借りれば、「リトル・ジャイアン(♀)」であり、「人食いチワワ」なのです。ものの数ページで生徒会長の人柄を具体的にイメージできるので、これらの表現を受けて読者もなるほどそうだよなとなるのです。そして、これまで本作を読んできた読者であれば、場を食ってしまいそうな個性のある生徒会長がアイリと衝突するのは目に見えていると思うでしょう。しかし、意外にもそのような展開にはならず、さらに意表をつく方向へ持っていかれることになります。このあたりの読者の誘導の仕方が上手で憎いなあと思ってしまうのです。

さて、「姫宮かれんの増殖」事件ですが、主眼は動機の解明にあります。つまり、「なぜ犯人は姫宮かれんのポスターを貼りまくったのか」という問いなのですが、この真の動機を特定するのは難しいのではないでしょうか。事件解明のヒントはこのあたりかなという部分までは気付けても、そこから実際の犯人の意図がどういうものであるかを指摘するための情報は足りないように思われます。

とはいえ、ミステリー的な見栄えはよくできています。第一に、容疑者を限定するロジックが明確であることです。姫宮かれんのポスターは生徒会が管理する物品であり、それが盗み出されて掲示板に貼りだされたことから、犯人はポスターが生徒会室にあることを知っていた人物に限られます。このような思考過程をしっかり描くことがミステリーには重要です。

第二に、将来起こることを推理によって予測するという、いかにも探偵らしいパフォーマンスを見せてくれていることです。探偵アイリは、掲示板の様子を観察し、近いうちに写真部がポスターの掲示許可を求めて生徒会室へやってくることを予言します。そしてそれは見事に的中するのです。これは理想的な探偵像というか、まるでホームズのようではありませんか。

さて、このように学校内でのミステリーにも見どころは多いのですが、今回はさらに作品全体のストーリーを動かすような出来事が生じました。第3話で餅谷(もちや)という並木警察署の刑事が登場しましたが、彼女の同僚にあたる男性が国谷のもとを訪れ、アイリの様子を尋ねます。結局この男性がアイリとどのような関係にあるのかは明らかにされないままでしたが、「男鹿邸(おじかてい)」という意味深なキーワードを残していきます。アイリの過去が気がかりな国谷は過剰反応してしまい、第5話では実際に男鹿邸へ赴くことになるのです。

ところで、今回のタイトルがハインラインの有名なSF小説夏への扉」を引いているのですが、内容的にはまったく関係ありませんのであしからず。

*1:事件の名前はマガジンR2016年1号のSTORY GUIDEより