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『夢喰い探偵』第9話「宇都宮アイリの冒険」(最終話)

郷土資料室に保管されていた由緒正しき日本刀が何者かによって盗み出されてしまう。現場は出入り口も窓も施錠された密室であった。証拠を残さない狡猾な犯人を捕らえるため、名探偵・宇都宮アイリは一計を案じる。

密室の理由

全体的に勇み足の物語展開だったため推理パートも短く、どうしても欲しいと思った説明が省かれてしまっていました。今回のミステリーの眼目は「なぜ犯人は密室を用意したのか」にあるはずです。つまり、犯行現場を密室にすることによって犯人にどのような利益があるかという問題です。探偵・アイリが指摘したある理由については納得できますが、これでは密室を構成するトリックの半分しか説明していないように思われます。すなわち、現場を密室状態にすること自体の理由です。しかし、トリックにはもうひとつ重要な要素があり、これはまた別の意味で犯人に利益があります。この二つの利益はどちらがより重要というわけではなく、どちらもほぼ等しく重要でしょう。この残りの一点が説明されなかったことで、解決編のカタルシスが今一歩になってしまったという印象があります。とは言え、ここで言う利益が功を奏したのであれば読者は完全に騙されたはずであり、解決編で犯人として名指しされた人物に驚いたことでしょう。

珍しいことに、今回は探偵が犯人を罠にかけています。つまり、疑わしい人物が存在したとしてもその犯行を立証することが困難である場合、犯人を確実に捉えるために一計を案じることがあります。これまでアイリは純粋な推理によってのみ犯人を追い詰めてきましたが、まったく証拠を残さなかった今回の犯人に対しては別の一手が必要になったようです。こうしたスリリングな展開はミステリーの楽しみのひとつでもありますが、物語中で実行された計画以外のものを考えてみるのも読後の楽しみでしょう。この場合、正解はひとつではありません。実を言えば、物語中で実行された計画には大きな落とし穴があるのです。しかも、アイリが知らないはずの情報が結果的にアイリの推理を有効にするという矛盾が生じているので、是非とも他の手段を講じるべきでした。

最終話らしい演出

探偵・アイリが犯人を特定したのはもちろん推理によってですが、実は事件関係者の多くも犯人の目星がついていたということが後に明らかになります。その根拠は推理によって裏付けられたものではなく、むしろ、アイリの探偵としての実績を認めるからこそ導き出されたものでした。アイリの探偵活動がひとまずの到達点を迎えたことが感じられる良い最終話でした。

ストーリー上の設定や謎をほぼそのまま残す形で完結してしまったことが残念ですが、個別のエピソードはどれも高い水準を維持しています。1年半ほどの短い期間でしたが存分に楽しませていただきました。

なお、完結巻である第3巻は10月17日発売予定です。