「閻魔沙羅からの挑戦状」推理ノート

 講談社メフィスト賞受賞作「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズから派生した企画として、公募型懸賞金付き推理小説「閻魔沙羅からの挑戦状」が公開されている。

【公式サイト】人気ミステリシリーズ「閻魔堂沙羅の推理奇譚」からあなたへの挑戦状!|今日のおすすめ|講談社BOOK倶楽部

【問題編】【ヒント編】閻魔沙羅からの挑戦状 犯人を当てれば現金5万円!/著:木元哉多|一般小説作品詳細|NOVEL DAYS

問題編となる小説の前半だけが公開されており、犯人の指摘は読者に課されている。推理のプロセスまで明示した上で犯人を特定した読者には賞金まで出るということだから、これは見過ごせない。ここでいう「推理のプロセス」には推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズで言うところの「エレガントな回答」が求められていることは言うまでもないでしょう。

解決編を含む本編(シリーズ第4作)の発売は今冬とのことですが、懸賞金の回答期限は2018年10月31日となっています。回答回数は無制限、9月5日には追加のヒントもあるということなので、今後しばらくはこの話題で盛り上がることができそうです。

 「名探偵予備軍」のみなさまのために、登場人物と、おおまかな出来事をまとめておきましょう。

登場人物

向井由芽

尼川中学2年2組。

堀之内亜美

同上。

栗竹七菜香

同上。

丸美麗奈

同上。美人。

徳永晃平

同上。イケメン。

江藤聖也

同上。ひきこもり。

江藤恒男

聖也の父。悪徳弁護士。暴力団と関係あり。有名人。

江藤未羽

聖也の母。元モデル。

駒野秀明

2年2組担任。数学担当。未羽と不倫。

向井鉄矢

由芽の父。売れない画家。

事件概要

日時

内容

水曜日

七菜香、駒野と未羽の不倫現場に遭遇、証拠写真を撮影。

翌、木曜日

七菜香、由芽と亜美に不倫の証拠写真を見せる。

亜美、七菜香から写真をもらう。

一週間後

亜美、誤答したはずの数学のテストが100点。
七菜香、クラスの投票により演劇のヒロイン役に当選。
由芽の父、絵が30万円で売れる。

翌日?

由芽、職員室で未羽に遭遇。

その後、下駄箱に鉄矢の万引き写真を発見。

4日後

由芽、徳永から手紙をもらい、夜の尼川神社に呼び出される。
何者かに脅迫を受ける。

その後、何者かに撲殺される。

 

推理ノート

  • 由芽にナイフを突きつけた脅迫者と、その後由芽を撲殺した殺害犯という異なる2名の人物が事件に関与している。
  • 尼川神社に由芽を呼び出したのは徳永なのだから、犯人(脅迫者あるいは殺害犯)は徳永なのか。
  • 由芽はなぜ脅迫されたのか。また、脅迫者はだれか。
  • 由芽はなぜ殺害されたのか。また、殺害犯はだれか。

その他、説明を要すること

  • 亜美はなぜ不倫の証拠写真を七菜香からもらったのか。
  • 亜美の数学のテストが100点だったのはなぜか。
  • 七菜香が演劇のヒロインに当選したは偶然か。
  • 由芽の父・鉄矢の絵が高値で売れたのはなぜか。購入した「高貴なご婦人」はだれか。
  • 由芽に気づいた未羽が由芽をにらみつけた理由はなにか。
  • 鉄矢の万引き現場を撮影したのはだれか。それを由芽の下駄箱に入れたのはだれか。そして、その理由はなにか。
  • 徳永が尼川神社に呼び出す手紙を書いた事情はなにか。本当に徳永が書いたものなのか。
  • 由芽はなぜ身に覚えのない脅迫を受けることになったか。また、なぜその直後に殺されなければならなかったのか。

三大流星群

三大流星群

宇宙空間に漂う塵は地球の大気と衝突すると発光し、地上からは流れ星として観察することができます。彗星が通過した後には大量の塵がまき散らされることになるので、地球とこの領域が一致する期間内にはいつも以上に多くの流れ星が発生します。これがいわゆる流星群です。

流星群は64種類もあり*1、実質的に毎日いずれかの流星群の活動時期に重なっていることになりますが、その中でも特に多くの流れ星を見ることができる流星群があり、三大流星群として知られています。1月のしぶんぎ座流星群、8月のペルセウス座流星群、12月のふたご座流星群です。

流星群はテレビの報道番組などで取り上げられることも多いのですが、大抵の報道では「いくつの流れ星が見れるのか」とか、「見ごろはいつか」といった出現ピークに関する情報しか提供しません。そのため、「流星群は出現ピークのときにしか見ることができない」という誤解を招きやすくなっています。実際にはピークの時間を過ぎても、あるいはその前後数日間に渡り多くの流星を見るチャンスがあります。では、具体的な流星の出現傾向はどういったものであるのでしょうか。以下では、有名な三大流星群に加えて、7月のみずがめ座デルタ南流星群*2の都合4種類の流星群の特徴を見ていきます。

流星の出現傾向

以下のグラフは、流星の数を日付ごとにプロットしたものです。横軸は日付(単位はday)となっていて、中央の0(day)がその流星群のピークの日です*3。縦軸はZHRという流星数の指標のひとつであり、ZHRが大きいほどたくさんの流星が流れることを意味します。グラフの元になっているデータは、アマチュア天文学者のコミュニティとして設立されたIMO(国際流星機構)*4が公開しているデータベースから、過去10年間(2007年~2016年)の観測データをすべて集計したものです。

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Meteor shower activity profile: (Upper left) Quadrantids. (Upper right) Southern delta-Aquariids. (Lower left) Perseids. (Lower right) Geminids.
Quad: しぶんぎ座流星群(図左上)

その年初めにやってくる流星群はしぶんぎ座流星群です(1月1日~5日)。しぶんぎ座流星群(左上)はまるで針のように急峻な活動傾向です。ピークの日を少しでも外してしまうと、もう流星はほとんど見えないでしょう。パッとピークが来てさっと過ぎ去ってゆく、なんとも潔い流星群ですね。

Per: ペルセウス座流星群(図左下)

ちょうど夏休みの時期と重なるためか、何かと話題になることも多いのがペルセウス座流星群です(7月17日~8月24日)。ペルセウス座流星群(左下)は比較的なだらかに変化している様子が見て取れます。ピークから2~3日ずらしても、十分な数の流星が発生しています。さらに、前後1週間程度までなら、それなりの数の流星を見ることができそうです。

Gem: ふたご座流星群(図右下)

クリスマス前にやってきて、その年を締めくくってくれそうなのがふたご座流星群(12月7日~12月17日)。ペルセウス座流星群ほどではないのですが、比較的活動期間が長く、ピークの一週間前から流星が増え始めます。面白いのは、ピークになる前は流星の数が緩やかに増えていく一方で、ピークが過ぎると急激にその数が減るといった、非対称な活動傾向を見せることでしょう。

Sounthern delta-Aqua: みずがめ座デルタ南流星群(図右上)

上述の三大流星群は最も流星が発生しやすい(そして、最も流星を見やすい)流星群ですが、他の流星群はどの程度の規模なのでしょうか。ここでは、みずがめ座デルタ南流星群を取り上げました(7月12日~8月23日)。三大流星群と比べてしまうと流星数としてはとても小規模のように思えますが、それらの流星群のピークを数日前後させたあたりの出現数とおおよそ同程度であることを考えれば、決して残念に思うような数ではないでしょう。むしろ、ピーク前後20日間も活動が続くので、非常に長い間楽しめる流星群であると言えます。

おわりに

流星の観察方法

流星群は多くの流れ星が見える日、ではなく、流れ星が見えるチャンスが高い日、という程度に理解しておくとよいでしょう。イラストや漫画にあるような流星の雨として見えるということはまずありえません。周囲に灯りのない、安全を確保できる場所に寝転んで、1時間ばかりぼけっと空を眺めつづける、といった気楽な態度で挑むのがベストです。

執筆動機

ちょっと気になって集計してみたらそれぞれの流星群の特徴がはっきり表れて非常に興味深く思ったので、集計作業がただの徒労で終わらないためにもここで紹介させていただきました。実を言えば、この程度の情報はネットのどこにでも散らばっているだろうと思い調べてみたのですが、ほとんど見つかりません。テレビの報道番組などに限らず、流星群を説明するならピーク日時や流星数だけでなく、こういった活動傾向も併せて紹介するべきでしょう。

リンク

流星群について重要かつ最低限の情報はこちらを見ていただくのが手っ取り早いのでおすすめしておきます。国立天文台のサイトなので、これ以上正確かつ利便性の高いサイトは望みようがありません。

www.nao.ac.jp

*1:流星群リスト(公式版)

*2:本ブログが絶賛オススメしているミステリ漫画『夢喰い探偵』の第4話に登場した流星群です。

*3:ピークの日は目算で決めました。

*4:IMO | International Meteor Organization

『虚構推理』<鋼人七瀬編>

 マガジンRで連載中の『虚構推理』が第6巻をもって一区切りを迎えました。原作小説一冊分の内容を2年かけて描き切り、今後は続編の連載が決定しています。また、原作者である城平京による続編小説の発表も決定しています。

 マガジンRに注目したのは『虚構推理』の漫画連載がきっかけでした。良い機会ですので、主に原作小説についてまとめておきます。

虚構推理(6) (月刊少年マガジンコミックス)

虚構推理(6) (月刊少年マガジンコミックス)

 

 『虚構推理』という物語のオリジナリティは「真相のいかんにかかわらず、もっとも説得力のある推理をしたものが勝ち」という着眼点にあります。つまり、たとえ事実と異なる推理をしたとしても、その推理が万人を納得させるものであるならそれでよいのです。探偵役の少女・岩永琴子はこのルールを援用し、事実を嘘に変えてしまおうと目論むのです。

 ミステリなのにそれでいいのか、というご指摘はもっともかもしれません。ふつうのミステリ小説は、探偵が正しい推理を行い、正しく真相を指摘するというのが基本プロットになっています。しかし、ここで立ち止まって考えてみると、探偵が明らかにした「正しい真相」が本当に正しいものなのか、誰にも判定できないことに気づくでしょう。なぜなら、探偵が推理の拠り所とした証拠の数々が偽の証拠であったり、探偵がまだ考慮に入れていない新しい証拠が後になって発見される可能性もあるからです。このように、ミステリ小説においては探偵を含めた作中の登場人物にも、そしてもちろん読者にも作者にも、「本当の真相が別に存在しうる可能性」を完全に否定することは不可能なのです。

 ミステリ小説が抱えるこの弱点のアンチテーゼ*1として『虚構推理』は存在します。この作品では初めから真相の追及を放棄しています。その代わり、ひとつの事件について複数の解釈が可能であるという論理遊戯を提供しているのです。これはミステリ用語でいうところの「多重解決」あるいは昨今流行りの「推理バトル」にカテゴライズされますが、『虚構推理』の優れている点はその結果「真実と虚構が逆転する」ことでしょう。本当であったものが嘘になり、嘘であったものが本当になるという大逆転。このような物語構造は作中に登場する女の亡霊・鋼人七瀬の存在に象徴されています。

 『虚構推理』の世界設定は一見するとミステリにあるまじき「亡霊が実在する世界」であり、鋼人七瀬もそのような怪異の一種です。作品世界において「鋼人七瀬は実在する」が真実なのです。探偵・岩永琴子はこの狂暴極まる亡霊を打ち消すために、すなわち「鋼人七瀬は実在しない」という虚構を真実に変えるために推理を組み立てます。

 なぜ推理によって亡霊を倒せるのか、という部分は本作における怪異の基本設定と密接に関連しており、かつ、それが多重解決である必然性にもつながってきているので、これは直接本作を読んで確認していただきたい。一言でいえば、『虚構推理』というタイトルに作中のすべての要素が集約されているのです。『虚構推理』は登場人物や世界観といったすべての設定が多重解決の必然性を保証するように構築されており、後半に探偵が提示する4つの解決の内容それ以上に秀逸であると感じられます。そのような驚くほど緻密な構成でいながら文体は軽妙で、どこにも原作者の血の滲んだような痕跡が感じられない点こそ奇跡的かもしれません。

 本作がこれほど完璧であるからこそ、続編はいったいどのような作品になるのかまったく想像がつきません。第一作の発表から6年という長期を経ての第二作であることや、漫画版の人気のおかげで多くの読者が注目している現状では期待値もハードルもこれ以上ないほど高くなっています。すでに読者は作者の手の内を知ってしまっているため、第一作と同じことをやっても意味がありません。次回作は趣向を変えてくることを仄めかしているあたり(第6巻あとがき)、第一作を上回る驚きにも期待ができるかもしれません。

 最後に言及することなってしまいましたが、漫画版は最高です。画力は申し分なく、キャラクターもそれぞれ個性的で魅力的、さらにはミステリの要点を押さえた構図など、ミステリ小説の漫画化としてほぼ理想的な完成度を持っているのではないでしょうか。読後の満足感は正直に言って、原作小説が100とするなら漫画版は120くらいです。とはいえ、ミステリとしてはやはり原作小説に軍配を上げたい。純然たるミステリの面白さを楽しめるのは小説版以外にはありえないでしょう。

*1:アンチテーゼってなんでしょう?あれ?よく意味がわかりません。ただ、この文章を書いた時はまさしく虚構推理がミステリのアンチテーゼだと思っていたので、そのままにしておきます。「よくわからぬむつかしげなことばを使ってあると高級だと思う愚か者はどこにもいるものだ。」高島俊男お言葉ですが…』(文春文庫)より。