『夢喰い探偵』第2巻

 2016年5月17日に『夢喰い探偵』第2巻が発売となりました(電子書籍版も同日発売)。

第2巻は第4話から第6話までの3話収録となっていて、個別の事件を解決する傍らヒロインである宇都宮アイリの過去も次第に明らかになっていきます。第1巻が登場人物の紹介と作品スタイルの定着であるとするなら、第2巻は物語を動かすための下準備と言えるでしょう。

各エピソードの詳細は個別エントリで紹介していますので、ここでは簡単な紹介と、第2巻を読み直して新たにあるいは再び抱いた疑問点を記しておくに止めます。

その前に遅ればせながらの登場人物の紹介を行うことにします。

登場人物の紹介

宇都宮アイリ(うつのみやあいり)

本作の探偵役である宇都宮アイリは、幼少時より病弱であるというハンディを背負わせられています。類稀なる推理力を持つが、その都度昏倒してしまうという弱点も併せ持っており、強弱両面を併せ持つ主人公として描かれています。名探偵になるという約束のため国谷が在籍する高校へアイリが編入学してくることで物語の幕が上がります。しかし、なぜこのタイミングで編入学したのか、なぜ今まで姿を現さなかったのかなど、実は謎が隠されており、今後の展開への大きな伏線となっているような気がしてなりません。

彼女は推理を行うたびに意識を失い、目覚めた瞬間には真相を喝破します。探偵アイリの特徴はこの「走馬灯で推理する」点にあります。本作の英題(『Revolving lantern detective AIRI』)はまさしくこの点を強調しているわけです。しかし、実を言えば、これほど虚弱な探偵を名探偵と呼ぶことに抵抗を感じないわけではありません。優秀な探偵であるなら、意識を失うほどの労力をかけるまでもなく事件を解決できるのではないでしょうか。身を削ってまで推理しなければ真相に到達できない探偵を果たして名探偵と呼べるかどうか、少し自信の揺らぐところです。好意的に解釈するなら、真相に気付くという一般人にとってのアハ体験が彼女の場合は持病の影響なのか意識の断絶として現れるくらいに理解しておくとよいでしょう。

ところで、並木街道高校の制服の仕組みがわからないのですが、アイリは黒いYシャツに白いカーディガンという出で立ちです。黒いYシャツをいつもかっこいいと思ってしまうのは私だけでしょうか。

国谷一力(くにやいちりき)

ミステリーマニアの少年であり、アイリに振り回されることになる彼に肩入れしてしまう読者は多いでしょう。第1話でアイリとの再会を果たした彼は、名探偵になるという約束の重みを再認識して崩れ落ちてしまいます。この時から、国谷はアイリの探偵活動に関与しないわけにはいかなくなるのでした。

助手役に指名された国谷ですが、その初仕事はどうやら推理の最中に昏倒するアイリを抱きとめることでした。ところが、その後あまり役に立っていませんね。アイリを抱きとめることに成功したのは第1巻では3事件のうち2回であり、第2巻では3事件のうち0回、合計で2回/6事件となります。ぜんぜんだめですね国谷くん。今では、国谷がアイリを受け止めることができるかどうかも読みどころになってしまっています。

ところで、彼の助手としての活躍はそもそもあまり描かれていません。せいぜい、解決編でアイリが披露する推理の補助業務(要は下っ端仕事)くらいでしょうか。何か有益な証言を取ってくるとか、探偵にない特殊な能力を持っているとか、もう少し助手らしいところを見せてくれるとうれしいのですが。そうでなくても、例えば、探偵とのディベートを繰り返すことで真相の可能性を絞っていくという、ミステリーらしい仮説検証のプロセスを見せてくれてもいいかもしれません。 

第2巻収録エピソード

第4話「夏への扉

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第4話の見どころはなんといっても生徒会長の圧倒的な存在感に尽きます。第4話はこのキャラクターがいるから成立するといっても過言ではありません。

さて、作中でも探偵が言及しているように、今回の主題は動機にあります。しかし、どうしてもポスターを貼り出す必要があったのかと問われるといささか疑問かもしれません。犯人の行動は逆に事件として認識され目立ってしまっていて、背景事情を詮索されるはめになっています。この観点からは、やはり犯行動機が弱いように思われます。

第5話「男鹿邸事件」

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ホラーテイストを効かせたギャグが秀逸な第5話。容疑者全員にアリバイがある中での犯行であるため、アリバイトリックの打開がメインとなります。

アリバイを成立させるためのトリック自体はよいのですが、犯人が計画を実行するための条件が少し厳しい。この条件は第三者によって確定されたものであるため犯行が可能かどうかは状況次第となり、犯行計画としては少し杜撰でしょう。これ以上に気になったのは、探偵はいかにして犯行動機に気付いたのか、という問題が説明されていない点。物語上自然な流れではありましたが、もう少し説明が欲しいところです。

第6話「金田一耕助vs.エラリー・クイーン

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舞台設定も推理のロジックも極めて完成度が高く、エピソードタイトルの名に恥じない秀作。複雑な状況に首尾一貫した仮説を組み上げる手腕は脱帽せざるを得ません。このエピソードには次の引用が適切でしょう。「正しい解決には、あらゆるものがぴったり符号しなければならない」。*1

問題点があるとすれば犯人を特定する根拠が弱いこと。もう少し直接的な証拠を提示できるとなおよかったかもしれません。この手の証拠は犯人として目星を付けるきっかけくらいにしかならないし、最終的に言い逃れされてしまうかもしれません。こういった証拠の出し方は本作の他のエピソードでもしばし散見されるので、一話完結というページ数の都合上致し方ないとも思う一方、もう少し工夫が見たいところでもあります。

あとがき

巻末のあとがきはまたしても1ページの簡潔なものではありましたが、義元氏のミステリーとの出会い、そして創作に対する姿勢が表れています。しかし、こういった説明書きが例えなかったとしても、作品を通して読者は氏の意図を汲み取ることができます。作品と氏に対して敬意を感じずにはいられません。今後も応援させていただきます。

『夢喰い探偵』への評価

本格ミステリー漫画としての『夢喰い探偵』には大いに期待感を抱いていますが、これは以下のサイトで確信を得ました。ミステリー系の漫画に詳しい評論家の福井健太氏が東京創元社のサイトで本作を紹介しているのです(この時点での既刊は第1巻のみ)。近年連載が始まった作品のひとつとして取り上げられており、しかも好意的な印象を抱いているようです。プロの目利きさんも注目する作品とあれば、これは「本格」のお墨付きを得たも同然でしょう。期待はますます高まります。

(リンク切れ)本格ミステリ漫画ゼミ 【第16講】 福井健太 (2/2)|本格ミステリ漫画ゼミ|Webミステリーズ!

福井氏のウェブ連載は単行本として発売されています。ミステリ漫画の歴史を把握する上で参考になるでしょう。なにより、『金田一少年の事件簿』がいかに偉大だったかがよくわかります。 2019年4月14日追記。

 

 第3巻は10月発売

本作が掲載されているマガジンRは隔月刊行物であるため、次回まで2か月待つ必要があります。当初はあまりのじれったさにやきもきしたものですが、こと『夢喰い探偵』に限って言えば、良質な短編ミステリを2か月ごとに読むことができるわけで、これは決して悪い話ではありません。更に言うなら、半年で3話収録の短編集が1冊発売される計算になりますから、ますますおいしい事件ではありませんか。とはいえ、がっつりはまってしまった今となっては半年待つなぞ末恐ろしくてしかたがないのですが。

単行本派のみなさまは2016年10月17日発売予定の第3巻をお待ちください。それではこれにて。

*1:エラリー・クイーンエラリー・クイーンの冒険』所収「アフリカ旅商人の冒険」井上勇訳より

義元ゆういちの別名義作品②「PIGEON WORKS アナログ探偵事件録」(2012年)

義元ゆういちの実質的デビュー作

義元ゆういち氏の先行作品を取り上げる第二弾としまして、2012年のマガジンプラス7月号に掲載された65ページの読み切り「PIGEON WORKS アナログ探偵事件録」を紹介します。名義は好本雄一ですが、義元ゆういち氏の事実上のデビュー作と捉えてよいでしょう。

本作は新人読み切りバトルであるグランドチャンレジチャンピオンカーニバル(略称GCCC)の一環として掲載され、読者のアンケートハガキによる人気投票が行われました。この人気投票によってトップとなった作家は新作を掲載できる権利を獲得するという、読者を巻き込んだデビューへのコンペティションと言えます。キャッチコピーにもある通り、「未来の連載作家を選ぶのは、あなたです!」というわけで、作家のデビュー自体を読者が後押しできるような仕組みになっています。このような企画は非常に興味深いですね。

人気投票の結果を直接確認したわけではないのですが、翌年の月刊少年マガジンに読み切りが掲載された際のキャッチコピーに「新人コンペナンバー1作家」として紹介されています*1。よって、読み切りバトルはめでたく義元氏の勝利となったのでしょう。

PIGEON WORKS

青春ミステリー

ここまでくれば自明かもしれませんが、デビュー作である本作も「青春ミステリー」です。しかも、連載作『夢喰い探偵』や読み切り『探偵作家』と同様、並木街道高校を舞台としています。登場人物の設定や造形は『探偵作家』とほぼ同じであり、男子高校生の藤原新(ふじわらあらた)が探偵役を務め、ヒロインに生徒会長の静和はこ(しずわはこ)を配置しています。『探偵作家』の主人公には覆面作家という設定がありましたが、本作ではまだその設定はありません。その代わり、図書室の一角を占領して探偵業務を行っています。タイトルにある「PIGEON WORKS(ピジョンワークス)」とはなんぞや状態でしたが、藤原の通信手段が伝書バトであることに由来します。なぜ伝書バトなのかと言えば、彼は電子機器が大嫌いのアナログ人間なのだそうです。このあたりは、『探偵作家』の主人公が小説を万年筆で執筆することにこだわっていたことに通じますね。まず間違いなく、作者の趣味でしょう。

事件と推理

学園を巻き込む騒動は、ひとりの男子生徒が屋上から転落したことに始まります。事件現場には私物のカメラが落ちていたため、彼は女子生徒を盗撮していたストーカーだったのではないかという噂が蔓延し始めます。生徒会長の静和は噂の真偽を確かめるべく、藤原に協力を求める、というのがあらすじになります。

藤原は男子生徒が話題のストーカーではないことを容易く証明します。その上で、ストーカーではないのなら、彼は一体何を撮影していたのか、を考えなければなりません。この問題を解決することによって、彼が屋上にいた理由に加え、さらには真のストーカー犯が誰なのかまでを一息に手繰り寄せることになります。

まっとうなミステリらしく、証拠の開示が丁寧であった点は感心します。男子生徒が屋上で撮影した3枚の写真という明快なヒントが用意されており、ここに隠された謎を明らかにすることで真相にたどり着けるという一点突破型の謎解きでした。これは同時にストーリーが一本調子になってしまっている原因でもあり、全体的にひねりが足りないという不満はありました。その代わり、解決編での真相解明はなかなかドラマチックに描かれています。校内に広がる噂の真相を明らかにすべく学生の面前に立った演壇上の静和会長と、その舞台袖における藤原の推理が同時並行で描かれ、そのコンビネーションが犯人に対する決定打を可能にしています。単に同時に描かれるというだけではなく、その状況そのものが最後の手がかりになるという妙手に、ドラマとしても犯人を追い詰めるトリックとしてもなるほどなと感心しました。

 巻末のQ&A

掲載誌の巻末に義元ゆういち氏へのQ&Aコーナーがあるのですが、そこでの受け答えを見て、この人は本物かもしれないと思ってしまいました。それは漫画家としてというよりも、むしろミステリの書き手として信頼できる作家さんだな、という感じに近いのです。こんなことを思ったひとつの理由は、新人賞に応募した氏の作品が「実験的な快作」と評されていることです。ミステリ読者にとって「実験的」というのは蠱惑的な響きのある単語です。ミステリは読者を驚かせることも目的のひとつですが、その驚きを生むためにあえてミステリのルールを破壊するような「実験的」な試みが作品自体に仕掛けられることもしばしばです。そのような驚きをミステリ読者はつねに渇望しています。もちろん当該作品を読んだわけではないので、どのように「実験的」なのかはわかりませんが、義元氏のその姿勢には一目置くものがあるようです。単に漫画家としてだけではなく、ミステリ作家に求められるような資質も感じ取れます。

さいごに 

義元ゆういち氏が連載開始前に発表した『PIGEON WORKS』と『探偵作家』を読めば、氏の創作のベースそのものが「青春ミステリー」にあることがわかります。しかも、正当な本格ミステリです。また、これらの先行作品の時点で作風は完成しており、連載作『夢喰い探偵』は完全にこの流れの上にあります。氏の作風でなにより良いのはコミカルな描写で、個性豊かな登場人物たちのさりげないセリフやリアクションがかわいらしい。特に、事件の中にミステリのお約束を見つけて勝手に盛り上がる登場人物たちのなんともおかしなこと。ギャグセンスが「青春ミステリー」をいい塩梅に引き立てている、といった感じです。これは優劣の問題ではなく、単に好みの問題かもしれまんね。

いつの日かこれらの読み切りが「義元ゆういち幻の初期短編」とか呼ばれるようになる日が来るのでしょうか。いえいえ、是非とも単行本に収録していただいて、もう一度読者の手に届くことを期待しましょう。まっとうなミステリに飢えている読者は数知れないのです。

*1:『探偵作家 俺/マリア』月刊少年マガジン(2013年9月号)

『夢喰い探偵』第7話「時効」

並木本町駅前の廃屋で白骨遺体が発見される。身元は2年前から行方不明になっている当時中学生の女子生徒であり、状況的に何者かによって撲殺された可能性が高い。国谷の友人であり、被害者の同級生であった生徒会員が容疑者のひとりとして浮かび上がる。さらに、遺体の傍には謎のメッセージが残されていた。

 

シリーズで初めて死人が出た事件

これまでの事件はすべて学園の内外で起こる「日常の謎」であり、どんなに悪質でもせいぜい軽犯罪止まりでした。要は、さすがに死人がでるような重大事件ではなかったのです。しかし、今回の第7話ではついに死人が出てしまいます。普通のミステリー漫画を読んでいるときであれば、これから捜査が始まって事件を推理するぞ、と意気込むのですが、『夢喰い探偵』においては作中で死人が出てしまったこと自体にショックを受けてしまいました。ページをめくる勇気を奮い起こすことにも一苦労でしたね。とはいえ、物語の間口が広いことも同時に示したわけですので、ミステリー漫画としては通常の進行だと思います。

再登場する登場人物たち

物語冒頭、アイリと国谷は生徒会室で遺体発見のニュースをチェックしています。生徒会員である国谷がいるのは当然ですが、アイリまで同席しているのはなぜでしょうか。仲がいいですね、ということにしておきましょう。そしてもちろん、生徒会室ですので、以前の「ポスター増殖事件」(第4話)で登場したメンバーが数名再登場を果たしております。もちろん、読者(私ですが)の人気をアイリと二分している生徒会長もいますが、アイリと国谷の夫婦漫才を引き立てるためだけの役どころとなっています。彼らと同様に再登場を果たした一人ではありますが、名前付きで紹介されたのは森林りえか(もりばやしりえか)ただ一人、今回の事件の容疑者なのです。そしてアイリと国谷は彼女からの依頼によって事件を捜査することになりました。彼女たちはたかだか素人探偵ではありますが、すでに警察とのコネはちゃっかり作ってあり(第3話)、新米刑事の餅谷万智(もちやまち)巡査部長が再登場します。

ダイイングメッセージと半密室

遺体は失踪当時中学生だった源未来(みなもとみらい)という女子生徒だったのですが、彼女とストリートダンスのチームを構成していた同級生たちが動機の存在を理由に容疑者扱いされることになります。遺体の発見現場は彼女たちがかつてダンスの練習をしていた並木本町駅*1の広場からほど近い廃屋でした。殺害現場のドアには内側から鍵がかけられていましたが、完全な密室ではありません。窓の鍵が開いており、犯人はこの窓から脱出したと考えられます。むしろ事件を不可解なものにしているのは、被害者が書いた血文字のメッセージです。ひらがな3文字で書かれたそれはダイイングメッセージのはずですが、「意味深なだけで意味不明」なものでした。

刑事事件を描く難しさ

今回の眼目はダイイングメッセージの解読にあるため、実物の血文字を見て確認する必要がありました。アイリは知己の刑事である餅谷刑事を呼び出し、あれこれ情報提供を依頼することになりますが、常識的に考えて現役刑事がこれに応えるということはないでしょう。ところが作中では「お約束」(漫画のお約束的展開といった意味)であると言って、血文字の写真を見せてしまったり、さらにはアイリと国谷を遺体発見現場へ連れていっています*2。いくら現場が初めから廃屋で、しかも捜査員が撤収した後だとは言え、さすがにそれはまずいんじゃないですか刑事さん、と言いたくなります。餅谷刑事には彼女たちの言うことを聞く義理だって何もないわけですから。ただの高校生が事件捜査に協力するには、物語上の必然性がどうしても必要になりますが、ここではそれが一切説明されていません。このあたりが、素人探偵を主人公にして刑事事件を描く難しいところですね。

解決編:半密室の論理に拍手

今回の事件も非常に難しい印象を持ちました。なにしろ、推理のためのヒントが十分ではないと感じたからです。この疑問点は解決編を読んでも解消しませんでした。アンフェアというわけではありませんが、詰めが甘いといった感じです(末尾に列挙しておきます)。

推理自体はよくできていると思います。特に、現場が不完全な密室状態だったという事実からひとつの仮説を排除するロジックはなかなか読みごたえがありよかったです。これによって新たな解釈が浮かび上がり、さらにダイイングメッセージの意味が明らかになるという一連の流れは極めてスムーズです。推理というより、推理の見せ方が巧みなのでしょう。義元氏のミステリーのいいところはどうやらこの辺にあるようで、読んでいてわからなくなることがないのです。これを一話完結の短編ではなく長編でやったらどうなるかという点は非常に気になりますね。

さて、結局、警察が捜査中の事件を一般人の高校生が解決してしまいました。事件解決後の餅谷刑事や警察の対応までは描かれておりませんので、この一件が探偵アイリの立場をどのように変えていくのか、まだよくわかりません。警察関係者とのコネが広がったり、別の形で刑事事件に関与するというような展開になる可能性もあるでしょう。様々な意味で、この一件の影響力は計り知れません。

ところで、解決編開始前に挿入される決め台詞「なろうか 名探偵に!」を凛々しい表情で言うアイリさんがいつも以上にかっこよくて痺れました。表情はもしかすると事件の性質を表しているかもしれませんね。前回(第6話)の事件はかなり悪質な犯人でしたが、そのときもけっこう厳しい表情をしていました。逆に前々回(第5話)は犯人の意図が善良なものであり、行為自体も悪戯レベルなので、決め台詞の表情はかわいくする、とか。 

「3話周期で面白いエピソードがやってくる」の法則

述べた通り、今回の第7話には難点が多く、力不足を感じました。前回の第6話が傑作だっただけに期待しすぎてしまったのかもしれません。ここで気付いたのですが、3話ごとに秀逸なエピソードがやってくるという法則があるような気がします。3の倍数にあたるエピソードは単行本の巻末に相当するので、必然的に力が入るのでしょう。面白いと言いますか、出来がいいと言いますか、とにかく力作であることが多いような気がします。まだ2巻が発売されてもいない状況でこんなことを言うのは無理がありますが、これまで雑誌で毎号追ってきた身として(もう一年経ったわけですね)、なんとなくそんな雰囲気を感じ取っている、というコメントだけ残しておくことにしましょう。 

疑問点

残念ながら今回のエピソードには納得できない点が目立ちました。特に、床に書かれた血文字が本当に被害者のものなのかを保証するものがないため、ここで思考がストップしてしまいました。ミステリーならいちゃもんがつくのは宿命ですが、その中でもこれは致命的かもしれないというものを以下で列挙しておきます。ただし、ネタバレになりますので、フォントカラーを白にして隠しておきますね。

  1. テーブルから落ちて頭を強打したことが死因なら、その場所に血痕が残らないのか?これによって警察は初めから事故と断定できたのではないか?また、血文字以外に血痕が残っている様子が描かれていない点が気になる。
  2. 同じく、テーブルから落ちたのであれば、その近くで遺体が発見されてもよいのではないか?また、その場合、遺体の姿勢(テープで縁取りされたような姿勢)はあのようになるのか?もっと関節が曲がったようなものになるのではないか。
  3. ダイイングメッセージの解読のヒントになったのは指の位置だが、2年間の白骨化の過程で位置がずれたという可能性はないのか?

*1:この”並木本町駅”が彼らの学校の最寄り駅(並木駅)からどの程度の距離にあるのか、作中では述べられていません。

*2:さらに言えば、事件現場を目にしたふたりのリアクションが低いのでは?国谷はもっとびびっていていいし、ミステリー狂のアイリは逆にはしゃいでしまってもおかしくない。不謹慎極まりないですけど。